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名古屋市熱田区で以前手がけた
築20年ほどのマンションリノベーションを
ふと思い返すことがあります。
街の中にありながら、窓の向こうに視線を向けると、眼下にはひらけた眺望が広がる一室でした。
最初に現地を訪れたとき、その景色が、この住まいのいちばんの個性になると直感したのを覚えています。
計画の軸になったのは、クライアントのライフスタイルでした。
仕事とプライベートの切り替え方、家で過ごす時間の濃淡、ものとの距離感。
既存の間取りをなぞるのではなく、暮らしの輪郭から空間を整えていくことで
この部屋にとって本当に必要な広さと、余白のバランスを探っていきました。
フルリノベーションだからこそ、構造以外はいったんフラットに考えることができます。
壁の位置や天井の高さ、視線の抜け方を丁寧に調整することで
同じ床面積でも、体感的な広がりは大きく変わります。
特にこの住戸では、リビングから眺望へと自然に意識が向かうよう
余計な要素を削ぎ落とし、空間の流れを整えました。
完成後、改めて感じたのは、「新築であること」だけが価値ではないということです。
すでに街に根づき、時間を重ねてきた建物の中にも
まだ目を覚ましていない魅力が確かに存在する。
少し言い換えるなら、いま社会で語られる空き家問題とは
使われなくなった建物の話というよりも、“まだ活かされていない空間のストック”の話なのかもしれません。
今回のリノベーションを通して、そのことを私たち自身も強く実感しました。
既存の建物に手を入れ、今の暮らしに合うかたちへと整える。
それは単なる再生ではなく、新しい価値を静かに付け加えていく行為だと思います。
都市に残されたマンションの一室も、郊外に佇む住宅も
見方を変えれば、まだ可能性を内包した素材です。
この熱田区の住まいが教えてくれたのは、リノベーションには
暮らし方だけでなく、建物や街との関係性まで更新する力があるということでした。
これから先、住まいを考える選択肢の中で、「整えて住み継ぐ」という発想が、もっと自然なものになっていく。
そんな未来を想像しながら、私たちは今日も、ひとつひとつの空間と向き合っています。
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