imaizumi blog
日進市立図書館 ― 縦へ伸びる「知の塔」を訪ねて。
愛知県・日進市。
住宅地に穏やかに寄り添うこの街に、視線を奪う黄金のキューブが静かにそびえている。
日進市立図書館。設計は、美術館建築で知られる 岡田新一設計事務所。
「知」を蔵する建築が、これほどまでに力強く、彫刻的な存在感を示す例は、実は多くないように思います。

訪問者を迎えるのは、垂直に切り立つ黄金の壁。
その表面には細かい無数の粒子が散りばめられ、冬の陽光さえ宝石のように反射する。
外壁は単なる仕上げではなく、まるで知識そのものの密度を象徴しているかのようです。
そして、大きな円形の開口。
これは「本を開く瞬間」を抽象化した造形にも見え、周囲の建築群に対し、圧倒的な意味性で支配する。

特徴的なのは、斜めに傾いたボリューム。
水平基準を裏切る建築は、都市にダイナミックな緊張感を生む。
斜め壁は構造的には難易度が高いが、それを“当たり前のように成立させる”のが岡田新一事務所。
図書館という静的なプログラムに、意図的な 「緊張」と「伸び」 を与えています。

内部へ足を踏み入れると、光が描く柔らかなモデリングが迎える。
天井に穿たれた小窓から、円形の光が床へと落ちる。その様は、まるで時刻表のように時間を刻む光の装置のようです。
丸、三角、斜め。
それらの形態操作は、単なる意匠の遊びではなく、光の軌跡を制御する幾何学に他ならない。
公共建築は、しばしば低予算や機能性を優先し、個性を捨てるケースも多いが、
しかしこの図書館は、建築を楽しむ人のために設計された公共建築である。
ここは、本を読む場所である前に、
“知に触れる体験そのもの”を演出する建築ではないでしょうか。
知的好奇心をくすぐる、黄金の外装。
緊張感ある角度で切り込まれた壁。
そして、知性を照らす、静かな光の穴。
それらすべてが“体験としての建築”であり、教養と文化を持つ層に向けて開かれた提案と言えると思います。
図書館は無料で訪問できるが、
この建築体験が無料で味わえるという事実には、密かな贅沢が潜む。
住まいであれ、店舗であれ、建築はただの器ではないと思います。
感情と知性を刺激する「時間の装置」になり得ますし、
建築が人生を豊かにするという真理を、この図書館はさりげなく教えてくれた貴重な体験でした。

造形物の思想
2025.11.19